第3話 葉月の『特訓』
春の日差しに夏の色が加わってきた頃、美穂と葉月は美穂の一人暮らしの家で机に向かっていた。
時はテスト期間。その間だけは学業に専念せよということで、部活も中断となるのが恒例だった。二人は勉強が苦手な美穂に葉月が勉強を教えるという建前と、人目を憚らずにイチャイチャたいという本音により、この期間は美穂の家で一緒に過ごすことにしていた。
もっとも、勉強嫌いな美穂にとっては葉月が教えてくれるというだけでモチベーションは急上昇しており、あながち悪いことでもなかった。
机に向かっているとはいうものの、美穂の家には勉強机というものがない。あるのは座卓と座布団ぐらいなので、必然的にそこで勉強しているのである。
その姿だけを見ていれば、美少年とも思えるような溌剌とした女の子と、お人形のように整った物静かな女の子という美少女のコンビが机を挟んで勉強しているという、美しい光景である。見ているだけならば・・・。
* * * * *
勉強し始めてから30分程度経った頃、珍しく順調に問題集を進めていた美穂の手が止まった。
「どうしたの美穂?分からないとこあった?」
「いや、問題は大丈夫なんだけどね。実は・・・お腹張ってきちゃって・・・」
「なんだ。私の前ではガマンしなくて良いって言ったじゃない」
「うん・・・。じゃあ、するね」
そう言うと美穂はすっかり尻の下でぺちゃんこになってしまった女の子らしいデザインの座布団から、むっちりとはみ出した巨尻の片側を軽く持ち上げると、「んっ・・・」と軽く力んだ。
ブッ・・・ブオオオオッ!!!!!
バフッッ!!!!!!
机に置いてあるコップがビリビリと揺れるほどの爆音が鳴り響くと同時に、美穂の腹に圧縮されていたガスが、セーラー服のスカートを捲り上げながら部屋中に解き放たれた。
部屋は一瞬にして美穂の腐卵臭と生ゴミを混ぜて熟成させたようなガスで充満する。
「ふぅ。ごめん、臭いよね・・・」
まだ葉月の前で放屁することに抵抗感のある美穂だが、
「気にしないで。ガマンすると体に悪いし」
という葉月の言葉に安心すると、勉強を再開した。
* * * * *
それから更に30分程後、結局行き詰った美穂は葉月に教えを乞うていた。
「葉月ちゃん、ここなんでこうなるのか読んでも分からないんだけど」
「この問題はね・・・」
葉月は授業中は大抵上の空にも関わらず、成績は上位という天才肌ではあったが、それなりに教え方も上手かった。
「なるほど!後次なんだけどさ・・・」
次の質問をしようとした美穂の腹に、またしても急速にガスが充填されるのを感じた。
「っとその前に、またオナラしてもいい・・・?」
「どうぞ」
ブビィィィィーーーーーーー!!!!
ぼゥゥッ!!!!ブブブゥゥゥゥ・・・・
美穂は再度片尻を上げると、学校の美穂のファンが聞いたら失神してしまうのではないかという下品な音を立てて屁を放った。
当の本人は
「なんかお腹スッキリしたら頭もスッキリしてきたかも!」
などと勝手なことを言っている。
勉強を再開する前に、自分ばかり申し訳ないという気持ちからか、美穂は
「葉月ちゃんも、したかったら遠慮なくしていいんだよ?」
と言った。
「私は、いい。美穂みたいに溜まんないし・・・私の、臭いから・・・」
葉月はそう言うと薄っすら顔を赤らめて俯いた。
「そんなの、全然気にしないでいいよ。あたしは回数も多いし、一発が臭くても足したら一緒だって!それに、私だけガマンしなくていいなんて不公平じゃん」
「わかった・・・じゃあ、したくなったらするね」
「うん!」
* * * * *
それから暫くして、二人が黙々と問題集をこなしている最中に、事は起こった。
軽快に問題を解いていたはずの葉月だったが、美穂がふと見ると、ペンを持つ手が止まっているのである。
顔はノートの一点を見つめたままで、心なしか赤い。
すると小さな声で、
「・・・ごめん」
とだけ言った。
「ん?どしたの?・・・って、ムぐぅッ!?!?」
答える前に、美穂の鼻に急激に『答え』が訪れた。
葉月が無音で放屁したのである。
葉月の小柄な体からは想像できないアンバランスな巨尻から放たれたガスは、臭いをなるべく拡散しないように、という無意味な努力により尻に押し付けられた座布団を楽々と貫通し、部屋中に充満し、美穂の鼻腔を突いた。
その臭いは腐った肉を肥溜めで熟成したような臭い、というには生ぬるい、生命として危機を感じるような毒性を含んだものであった。
思わずタオルで鼻を覆った美穂だったが、ますます顔を赤くして俯いてしまった葉月を見て、
「は、葉月ちゃんもガマンしないでしてくれてよかった!スッキリした?」
と励ます(?)と、呼吸を整えた。
「うん・・・。臭くてごめんね・・・」
「そ、そんなに臭くないよ!!少し慣れたかも!」
そう言いつつ、内心、あの座布団はもう使いものにならないな、と思う美穂だった・・・。
* * * * *
こんなこともあり、二人の間ではお互いに気にせず放屁しよう、ということになった。
当初はそれでも遠慮していた美穂だったが、時が経つにつれて一人でいる時と同じように放屁するようになった。
ある時は「うーん・・・」と問題に頭を悩ませながら自然な動作で片尻を上げ、
ぶふぉおおおッッ!!!!
と爆音を轟かせ、
ある時は単語帳を読みながら
ブゥ~~~~~ゥゥゥ~~~~~~~・・・・!!!
と信じられないような長さの屁を放った。
葉月も最初のうちは放屁の度に顔を赤らめていたが、次第にまったく表情を崩さないまま無音の放屁をするようになった。
淡々と問題集をこなしつつ、女の子座りの姿勢を崩さないまま無音でガス抜きをするのが葉月のお決まりだった。
座布団の上に鎮座した子供っぽいパンツに包まれた巨尻から、
スゥゥーー・・・・ぅぅーーーー・・・・・・・・
と特濃のガスを放出するのである。
数日間葉月の尻の下に敷かれた座布団は、オナラに色が付いていれば真っ黄色になっていたと思えるほどに葉月のガスを吸い込んでおり、中の綿の繊維一本一本にまでその臭いが染み渡っていた。
* * * * *
別のある日のこと。二人なりに順調に勉強を進めていた美穂と葉月だったが、その日はなんとなく不運の重なる日だった。
まず天気。梅雨の始まりを感じさせるジワリと湿った空気と曇天で、気分屋のところがある葉月だけでなく、カラッとした晴天が好きな美穂も何となく気が滅入るような天気である。
学校でも美穂は授業中に教師に指されて問題が解けなかったり、葉月は苦手な体育で転んだりと、小さな不運が続いていた。
そんなフラストレーションが溜まった状態で勉強をしている時に、事は起きた。
美穂が数学の問題に頭を悩ませている時のこと。
ようやく解法が見えてきそう、と思ったその瞬間、美穂の鼻をいつもの激臭が襲った。
何度嗅いでも慣れない、葉月のスカシっ屁である。
頭をガツンと殴られたかのような強烈な臭いに、いつもは葉月に気を使って咳き込んだり鼻を押さえたりしたいのを必死に我慢していた美穂だが、せっかく解けそうだった問題を台無しにされた腹いせもあり、少し咳き込んで見せた。
そんな美穂の様子を気にもせず、葉月はお人形のような整った顔を崩さないまま黙々とノートにペンを走らせている。
気にせず出して良いと言ったのは自分だったが、部屋を毒ガス室に変えて置きながらここまで無反応だとちょっと腹立つな、と自分のことを棚に上げて思った美穂は、
「葉月ちゃんってさ、オナラするのはいいんだけど・・・なんでいつもスカシっ屁なの?いきなり臭いが来るっていうのは、正直ちょっとキツいかも・・・。音出してくれれば、少しは心の準備ができるっていうか」
と半ば八つ当たりのように言った。
「美穂が好きにしていいよって言ったからしただけじゃん」
「そうだけどさ・・・」
「別にわざと音出さないようにしてるんじゃないし。普通にしたら、音しないの」
むくれる葉月は、
「私だって前から思ってたけど、美穂のオナラって音大きすぎだし、最近量も増えてない?今日とか5分に1回ぐらいしてるじゃん。女の子なんだから、少し音は抑えようとか思わないの?」
と応戦する。
「あたし上手く音無しでなんて出来ないし、ガスが溜まりやすいのは昨日の焼肉のせいだし・・・。そんなこと言ったら、葉月ちゃんだって女の子なんだから、少し臭い抑えてよ」
「臭いは体質なんだから仕方ないでしょ!それに美穂のだって十分臭いし!音は自分で調節できるじゃん」
「出来ないもんは出来ないんだって!!」
数秒間睨み合う二人の沈黙を破ったのは葉月だった。
「美穂、私のこと好きなんだよね?」
「・・・うん」
「私も好き。これから先も美穂と一緒に過ごしたいなって思ってる」
「あ、ありがと・・・」
ケンカからの突然の告白に戸惑う美穂。
「でもね、この程度で耐えられなかったら、一緒にいられるか怪しいと思うの」
「・・・」
「今日のなんて全然臭くない方だし、お、お通じも3日前ぐらいに来たばっかだし、こんなので臭がってたら、この先心配」
「・・・」
「だからね、特訓が必要だと思うの」
「え・・・?」
葉月はおもむろに立ち上がると、今まで自分の尻に敷いていた座布団を手に、話についていけない美穂の前に立った。
「いきなり直接嗅いじゃったらこの前みたいにすぐ気絶しちゃうと思うから、段階を踏んだほうが良いかなって」
そう言うと、美穂の目の前にガスがたっぷり染み込んだ座布団を差し出した。
先程の葉月のガスが一向に薄まらずに充満していた室内だったが、座布団の放つ悪臭は格別である。
美穂は嫌な予感がしつつも、若干顔を背けながら尋ねる。
「・・・これを、どうするの?」
「どうするのって、嗅ぐんだよ?これ、私のオナラ吸い込んでるから、ちょっと臭いと思う。これで慣れたら次に行こう」
言ってて段々恥ずかしくなったのか、顔を赤らめる葉月。
「え、これに顔つけて・・・?ってか、次って何・・・?」
「いいから!!!」
混乱する美穂の顔面に、葉月はバフっと座布団を押し付けた。
葉月の尻の湿っぽい生暖かさと、ガスの温もりが感じられる座布団で顔面が覆われた美穂は、思わず戻しそうになるのを必死で堪える。
「ムグッ・・・!ゲホッ・・・コホッ・・・!!く、臭すぎでしょ!!!」
葉月の直前の放屁だけでなく、その前や更に前のガスの臭いまで薄っすら感じられる座布団は、もはや凶器と化していた。
「よく嗅いだ?じゃあ次ね」
「ちょ、ちょっと待って・・・。ゴホッ・・・もう限界・・・」
息を切らせて床に崩れ落ちる美穂を無視すると、葉月は
「じゃあ今度は、新鮮なので特訓ね」
と言うと、スカートの後ろををぺろっと捲りあげると、もう片方の手で座布団を尻にあてがった。
「ま、まさか・・・」
「んっ・・・」
むっすぅぅぅぅ~~~~ぅぅぅぅ~~~~・・・・・~~~~~~
20秒にも及ぶ溜めの効いた葉月のスカシっ屁は、その脂肪のつきすぎたむっちりとした尻肉に押し付けられた座布団の端から端まで染み渡った。
「ケホッ・・・!葉月ちゃん・・・それは・・ゴホッ・・・まずいって!!今日はもうやめにしよ!」
座布団が吸収しきれずに部屋に拡散したガスだけで意識が朦朧とした美穂は必死に懇願するが、葉月は聞く耳を持たない。
「うるさい。はい、嗅いで」
そう言うと葉月は、自らの尻から放たれたばかりの新鮮なガスが立ち上る座布団を美穂の顔面に押し付けた。
数秒間押し付けられただけで、顔中が座布団に染み込んだ生暖かいガスで覆われ、鼻腔を突く臭いは美穂の頭を殴るような衝撃を与えた。
「むぐぅッ!!!くっさぁ!!!!!気持ち悪くなってきた・・・・・」
思わず座布団を放り投げて咳き込む美穂の頭上から、非情な声が降りかかる。
「まだまだ、終わりじゃないよ?」
そう言う葉月の小学生にも見えるようなあどけないロリータフェイスも、今の美穂にとっては悪魔の顔にしか見えない。
ブッスぅぅぅぅ・・・・・
微かに音が聞こえるスカシっ屁を放った葉月の尻には、いつの間にかその右手が押し付けられていた。
尻肉に埋もれながらガスの受け皿となった葉月の白魚のような右手が、美穂の面前にぬっと差し出される。
「はい、次はこれ嗅いで」
「ひぃぃ!!」
怯える美穂の前でゆっくりと開かれる握りこぶし。
そして、モワァっという擬音が聞こえそうなほどに濃厚な握りっ屁が美穂の顔面を包み込んだ。
「ゲホゲホッ・・・・!!臭すぎだってば・・・!!ゴホッ・・・・」
意識が朦朧とし、思わず部屋から這って逃げ出そうとする美穂。
その後ろから、いつの間にか握りっ屁の再充填を終えた葉月の右手が差し出され、手のひらが鼻を覆った。
限界を超えた悪臭に、頭の中を火花が飛び、鈍い痛みを感じながら美穂は意識を失った。
目を覚ますと、葉月の無表情なベビーフェイスが顔を覗き込んでいた。
どうやら膝枕をしてもらっているようである。
「あ、起きた」
以前美穂を気絶させた時とは変わって平然としている。
「起きた、じゃないでしょ・・・う~・・・頭クラクラする・・・」
そういうと美穂は起き上がった。
「少し慣れたでしょ?」
「慣れるわけないでしょ、あんな臭い・・・」
「あんな臭いって・・・」
頭が働かないために珍しく率直な意見となってしまった美穂の発言にうろたえる葉月。
「でも、前より目が覚めるの早いよ」
「ホント?じゃあ少し慣れたってことなのかな・・・。素直に喜べない・・・」
「また今度特訓しようね。最後は直接嗅いでも耐えられるぐらいに」
「いや、それは一生掛かっても無理なんじゃないかと思う!」
* * * * *
こうして、葉月の『特訓』は終わった。
テストの教科に加えて、新たな特訓が加わるのではないかという美穂の心配は杞憂で、それからテスト当日までの毎日は、これまで通り二人で勉強し、分からないところを葉月が教える、というスタイルで続いた。
結果と言えば、珍しく真面目に勉強した美穂の成績は上々であり、美穂が葉月に礼を言うと、葉月は良かったね、と答え、ご褒美のキスをした。
「ね、葉月ちゃん」
「ん?」
「これから先、あの臭いに耐えられるかは正直自信がないけど、葉月ちゃんの魅力からは逃れられないと思う」
「ふふ、私も逃さない」
葉月はいたずらっぽく笑った。
慌ただしく過ぎたテスト期間は、こうして幕を閉じた。