第1話 王子様の秘密
名門中高として名高い私立百合ケ丘女学院。
市街の喧騒から離れた閑静な住宅街に位置するこのいわゆるお嬢様学校は、厳しい校則や可愛らしいセーラー服だけでなく、真偽の程は別として、生徒が美少女揃いであることでも有名だった。
そんな中でも一際目立つ美少女が、1年2組の「王子様」大竹美穂である。
ショートカットのヘアスタイルに、少年然とした顔立ちをした彼女は校内の女子の人気を一手に集めており、明るく溌剌とした性格と相まって常にクラスの中心となっていた。同級生や先輩から毎日のように言い寄られているものの、それらをことごとく断っているとのまことしやかな噂もあった。それだけ人気の女子だったのである。
彼女は今、所属するバレー部の活動としてランニングの真っ最中である。ボーイッシュな見た目に反し、彼女のEカップはあると目される豊かなバスト、そして何より練習着に収まりきらない特大のヒップやムチムチの太ももは周囲の生徒(や一部の教師)の劣情を大いに煽っていた。
周囲の視線を気にすることもなく、悠々とランニングを続ける美穂に、教室の窓から絡みつくような視線を向ける者がいた。もう一人の衆目を集める美少女、1年2組の「姫」小柴葉月である。
美穂とは対照的に、色白で華奢な体躯やふわふわなロングヘアはまさに「お人形さんのよう」と称するに相応しいものであり、小学生にしか見えないあどけない顔に似合わない憂いを帯びた目が魅力的な彼女は「王子様」に対する「お姫様」であった。
性格の方も対照的であり、あどけなくも冷たい視線や休み時間にあまり自席にいないことも相まって、葉月はあまり周囲との関わりを持たずに学校生活を送っていた。
だが、無表情なベビーフェイスの奥で、彼女は激しい恋をしていた。多くの生徒と同じく、彼女も美穂の笑顔に一目惚れしたのであった。だが、いかに恋い焦がれようとも、同じクラスにありながら、孤高の存在となっていた葉月は美穂と会話を交わしたことすらない。ただこうして、熱い視線を向けるだけであった・・・。
* * * * *
入学から1ヶ月が過ぎた5月のある日の放課後、葉月は帰り際、体育館の裏の人気のないに立ち寄っていた。彼女は人に言えない理由で、休み時間や放課後に度々ここを訪れていたのである。
普段は誰も訪れることのないこの場所だったが、今日は先客がいた。美穂である。
思わぬところで想い人に出会ったことに驚きつつ、葉月はその姿に目を奪われた。
練習の後なのだろうか、バレーボールのユニフォームに身を包んだ美穂の後ろ姿は健康的な魅力を放っていた。
少し汗ばんだうなじから細いウエストに連なるのラインは美しく、そこから彼女の小顔が2つは収まってしまう程の大きなヒップ、そして腰と同じぐらいの太さがあるのではないかと思われる程の肉感的な太ももが続く。バレーで鍛えた筋肉の上に、脂肪がたっぷりとついた、完璧なプロポーションだった。
我を忘れて後ろ姿に見とれる葉月だったが、ふと気づくと、美穂の様子がおかしい。何やら自分の下腹のあたりをさすっているのである。
すると何の前触れもなく、
ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!
という重低音がその大きな尻から放たれた。
信じられない面持ちで眺める葉月だったが、紛れもない美穂の放屁だった。
当の本人は大放屁にスッキリとしたのか、「んっ~~」と伸びをすると、短パンの尻のあたりを手ではたいた。
しかし、更に信じられないことが起こる。葉月は美穂から10m程離れた場所にいたのだが、大爆音から数秒後、物凄い悪臭が葉月の鼻を襲ったのである。その臭いは腐った卵と肉と生ゴミをごちゃ混ぜにして日向に放置したかのような臭い。風通しの良い屋外の離れた場所からこれ程の臭いとはにわかに信じがたいが、明らかに「オナラ」と分かるような悪臭だった。
「けほッ・・・こほっ・・・・・・」
鼻先で嗅がされたかのような濃密なガスに思わず咳き込む葉月。
その声でようやく美穂は葉月の存在に気づいた。
「は・・・葉月ちゃん・・・!?いつからそこにいたの・・・?っていうかここじゃ危ないよね、新鮮な空気のとこに行こ!」
驚いた美穂だが、まず葉月の身を案じ、持っていたタオルを葉月の鼻と口に当てると急いで離れた場所へと連れて行った。
意外と冷静な葉月は
「もう大丈夫。・・・私の下の名前、覚えててくれてたんだ」
と何やら見当違いなことを言ってはにかんでいる。
「えっ?あ、当たり前じゃん!それよりホントに大丈夫?意識とか、朦朧としてない?気持ち悪かったりしない・・・?」
美穂はうっかり自分のオナラを嗅がせてしまった時の過去の経験から、葉月の身を案じているのであった。
「もう大丈夫だって」
「ホントにゴメンね!!」
「いつも、あんな感じなの?」
「う・・・うん・・・。あたし、昔からお腹張りやすくって・・・。臭いも・・その・・・凄いキツイみたい。だから、いつもこういう人のこないところでガス抜きしてたんだ」
顔を真赤にしながらそう言う美穂を、葉月は上目遣いのジト目で眺める。
「そう・・・なんだ。大竹さんって王子様みたいにカッコよくて可愛い人だと思ってたから、意外」
自分で言ってて恥ずかしくなった葉月も顔を赤らめたが、不思議と軽蔑や失望の色は見えなかった。
「ね、この事、みんなには言わないでくれる・・・?」
「もちろんよ、2人だけの秘密・・・」
そう言って見つめ合うこと数秒、
「そ、それじゃ」
と言って走り去る葉月の子ウサギのような後ろ姿を、美穂はただ見つめていた。
* * * * *
自宅でシャワーを浴びながら、美穂は絶望に打ちひしがれていた。
同級生に、ましてやお嬢様学校の同じクラスの生徒にあの“体質”のことがバレるなんて・・・。
しかし美穂はこのことが学校で広まってしまうのでは、などと心配して落ち込んでいたのではなかった。
その年頃の女の子としては最も恥じらうべき行為がバレてしまった相手が、他でもない葉月だったからである。
実は美穂は、葉月と同じぐらい激しく葉月に恋をしていた。
その恋は、まさに一目惚れから始まった。
入学式で葉月を一目見た時の衝撃を、美穂は今でもはっきりと覚えていた。まるで天使が降臨したかのような、冒し難い清純な姿。そしてそのあどけない顔に似合わないアンニュイな表情・・・。
しかし美穂は、同じクラスにいながらにして一言も口を利くことはできていなかった。運動部に所属し、溌剌とした性格の美穂は必然的にクラスの中心のグループに所属していた。一方葉月は極端に愛想が悪く、休み時間は席を外しているか、席にいても静かに一人で本を読んでいるようなタイプだったため、美穂とは接点がなかったのである。
いや、それだけが理由ではなかった。もしそれが他の女の子であれば、美穂はそれでも気にせず話しかけていただろう。要するに、自分とは別世界に生きるような、好きな女の子に話しかける勇気がなかったのである。
美穂は「王子様」と称されるその恵まれた容姿から、女子生徒からのアプローチが後を絶たなかった。それは憧れを形にしたファンレターのようなものから、放課後に呼び出されての告白のような本格的なものまで幅広かったが、美穂はそれらを全て断っていた。葉月を一目見てから、他の子に恋をすることなど考えられなくなっていた。
実は最近、葉月が自分の方を見ているのに気づいたり、チラッと目があったりすることが多かったのである。もしかして葉月も自分のことを・・・という希望に胸をときめかせたりもしていた。
だが、それももう終わりだった。
「こんなスカンクみたいなやつのこと、葉月ちゃんが好きになるわけないよね・・・」
美穂は何度目かわからない溜息をついた。
* * * * *
窓の外を眺めながら、葉月は胸の動悸が収まらないのを感じていた。
素敵な私の王子様・・・。
その美穂が普段の姿からは想像もつかないようなはしたない音を立てて、鼻が曲がるような放屁をしたのである。
直後のスッキリしたような気持ちよさそうな表情、そして気づかれた時の真っ赤な顔・・・。
葉月は美穂のそんな姿に幻滅するどころか、ますます興奮していることに気づいた。
「あの子もあんなオナラしたりするんだ・・・あんな表情するんだ・・・」
毎晩美穂の姿を思い浮かべるたび、その想いは膨らむ一方だった。
美穂を自分のものにしたい、その幼い体をメチャクチャにしてほしい・・・。
いつしか想いは抑えきれない程になっていた。
* * * * *
それから数日後、何事もなかったかのように学校生活を送っていた2人だったが、アクションを起こしたのは葉月の方だった。廊下で美穂にすれ違い際「放課後、この前の場所、来て」とだけ告げたのである。
放課後、美穂が例の場所に着くと、既に葉月がこっちをじっと見て立っていた。
美穂は、葉月の「可愛い」という言葉だけでは表現し得ない儚げな美しさに恍惚とした。白く透き通るような肌、薄っすら赤く染まる子供のようなほっぺた、少し憂いを帯びた瞳、長すぎる睫毛・・・。そんな彼女に近づいていく。
葉月が口を開く。
「今日はね・・・あなたに言いたいことがあって、呼んだの・・・」
頬を赤らめ、囁くように言葉を紡ぐ。美穂には、その先の言葉が分かるような気がした。
「入学して・・・同じクラスになってから、ずっと、あなたのこと見てた・・・」
突如、美穂に抱きつき、その胸に顔を埋める。
「好き・・・。好き・・っ!」
呆然と立ち尽くす美穂の中に、喜びと戸惑いが芽生える。
「葉月ちゃん・・・。ホントに?あたしの事・・・好き?」
「うん・・・好き」
「実はね、あたしも好きだったの。葉月ちゃんってお人形さんみたいで、お姫様みたいで、あたしなんかが話しかけたりしちゃいけない気がしちゃって・・・。それでこの前もあんなことがあったし、もうダメかなって思ってたんだ・・・」
そして、美穂も葉月をギュッと抱き返した。
「美穂って・・・呼んでいい?」
「うん、もちろん」
「ね、美穂・・・」
そのまま何も言わず、潤んだ瞳で葉月は美穂の顔を見上げた。
その意味が分かった美穂は、ゆっくりと葉月の小さな唇に自身の唇を重ねる。
舌も使わない、一瞬だけの触れ合い。今の2人には、それで十分だった。
* * * * *
それからその場所が2人の逢引の場となった。
身長差のある2人なので、抱き合うと葉月の顔が美穂の胸に収まるような形となる。
「葉月ちゃんってさ、私の胸好きだよね」
「そんなこと・・・あるけど。大きくて羨ましい」
「スポーツやってると鬱陶しいこと多いけどね。あたしは葉月ちゃんの華奢な体が羨ましい」
そう言って細い肩や小さな胸を撫で回す。
ふと、葉月が美穂から離れるとこう言った。
「ねえ、私なら、美穂の秘密、受け止められるよ」
「え・・・?」
葉月は戸惑う美穂にトンっと軽いステップで近づくと、細い指を美穂の下腹部に這わせた。
「お腹、苦しそうよ。いっつも見てるから分かるの」
「う、うん。授業中とか、我慢してたから・・・。かなり溜まってるかも」
「していいよ」
そう言うと葉月は美穂のお腹を揉み始めた。
「いっつも我慢してるの、辛いでしょ?私といるときは、我慢しないで」
刺激を受けた美穂の腸から「キュウゥ~・・・グルルル」という音が鳴り響く。
「ほら、ね?」
「だ、ダメだって・・・。後でガス抜きするから大丈夫!そんな近くで嗅いだら、今度こそヤバいって!」
「でも、お腹はもう我慢できないって言ってるよ?」
「ホントにヤバいって!!は、離れて・・・!」
美穂の言葉を無視し、葉月は揉む手に力を込めた。
ブッ!!ブスッ!!ブバアアアッ!!!!
我慢できずに溢れ出たガスが周囲に充満する。
「もう・・・止まんない・・・」
ッブーーーーーーーーッ!!!!
ブボオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!!!
短いスカートを捲りあげる程の勢いで美穂の巨尻から放たれるガス。
その爆音は離れた校舎にも響き渡るのではないかという程だった。
ガスの量に比例して濃くなる悪臭の中、葉月は「悪臭の発生源」をギュッと抱きしめていた。後ろに回した手は美穂のスカートの中に入り込み、その尻を揉みしだく。
「葉月ちゃん・・・!離れてって・・・止まんないから・・・!」
ブウッ!!ブビィーーーィィイイィィィーーー!!!!
「ケホッ・・・これが、美穂の匂い」
強烈な臭いに目眩を覚えつつも、美穂の毒ガスを吸い込む葉月。
今度はひざまずくと、美穂のスカートを捲り上げ、その巨尻に顔を埋めた。
「美穂のお尻おっきくて柔らかい・・・。ふかふか・・・」
「ちょっ・・・!葉月ちゃん!離れて!あっ・・・」
バフォッ!!!!!
特濃の熱いガスの塊が葉月の顔面に吹き付けられ、葉月のふわふわな髪の毛がなびく。
離れようとする美穂の足を葉月がつかみ、バランスを崩した美穂はそのまま、葉月の上に座り込む形で尻もちをついた。
葉月の小さな顔は、美穂のこれでもかという程に食い込んだスポーティなパンツに包まれた、あまりに大きな尻に覆い尽くされた。
「早く・・・どいてって!!もっと凄いの出ちゃう!!」
自分が尻に敷いていることも忘れ、そう叫ぶ美穂の腹に、ガスの波が押し寄せるのを感じた。
もはや歯止めが効かなくなった美穂の腹と尻は、栓の壊れた巨大な毒ガスタンクと化していた。
押しつぶされた小さな顔の上に、止まらない毒ガスが吹き付けられる。
ブシュウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!
ブモォォ!!!ブブブブブブウウウウウウウウウウウウウウウゥゥゥウゥゥゥゥ!!!!!
数分間にも及ぶガスの放出の中、巨尻の下敷きとなった少女は必死にその香りを吸い込んでいたが、遂に耐えきれずに意識を失った・・・。
* * * * *
「んぅ~・・・・・」
葉月は何やら柔らかいものの上で目を覚ました。
「よかった!!葉月ちゃん!」
美穂が上から覗き込んでいる。どうやら膝枕されているようだ、と葉月は気づいた。
「もう、たかがオ・・オナラぐらいで大げさよ」
「だって、私のは特別製だから・・・」
「でも、全部受け止めるって言ったでしょ?」
美穂の脳裏に恥ずかしい光景が蘇る。
「いきなりあんなことするからびっくりしたよ!・・・でも、葉月ちゃん、そんなに私の事が好きなの?」
葉月が立ち上がる手助けをしながら、美穂は尋ねた。
「うん、好き・・・。いっつも美穂のこと考えてる。授業中も、寝てる時も」
はにかみながらもはっきりとそう答える葉月の愛らしさに、美穂は理性のタガが外れるのを感じた。
葉月の小さな体をギュッと抱き寄せると、乱暴な程に激しく唇を奪う。
「んっ・・・私も、葉月ちゃんのこと好き・・・もっと好き・・・」
美穂の舌が葉月の歯茎に触れるたび、葉月は甘い声を漏らした。
「私の方が・・・んぁっ・・・好きだもん・・・んっ」
燃え盛る2人の恋を前に、夕日が沈みかけていた。
* * * * *
帰り道、美穂は1つの疑問を口にした。
「それにしてもさ、葉月ちゃんって鼻が悪いの?」
「いきなり何を言うのよ・・・」
「だってさ、あれだけの臭い吸っても中々気絶しないし、すぐに復活するしさ」
気絶するのが前提みたいな言い方に苦笑しつつ、葉月は答えた。
「復活って・・・。今まで、誰かに嗅がれたことあるの?」
「え?あ、あるような、ないような・・・」
「普通の人はどうなるの?」
「離れてれば、吐くぐらいで済むけど、近くで嗅いだら失神とか・・・」
「ふーん・・・」
「ふーんって・・・。葉月ちゃんはなんで平気なんだろう?」
「さあ?相性がいいとかじゃない?」
そう言うと、葉月はくるりと回って美穂の顔を見上げた。
普段大人しくて神秘的な雰囲気な彼女のそんな無邪気な姿に、美穂は思わず微笑んだ。
「そうかもねっ」
2人の恋は、まだ始まったばかりである。