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​第2話 お姫様のヒミツ

ある晴れた日のこと。

美穂の部活がない日は、いつも一緒に下校するのが二人の決まりとなっていた。二人の関係は学校では秘密にしていたため、律儀に「例の場所」で待ち合わせてから帰るのである。

二人でいる時の葉月は学校にいる時の自分を閉ざしたような雰囲気は解け、小学生にしか見えないあどけない顔のままの仕草を時折見せる。そんなギャップが美穂にはたまらなく可愛く思えた。

縁石にぴょんと乗り、綱渡りのようにして歩きながら葉月は尋ねる。

「ね、美穂ってさ、一人暮らししてるんだっけ?」

「うん。最初は家から通おうと思ったんだけどねー。凄い遠いしさ、お母さんも家事とか勉強になるからいいんじゃないかって言うから」

「そうなんだ」

「葉月ちゃんは、大豪邸から黒塗りの車で通学してるって噂聞いたけど」

「そんなわけないでしょっ」

実際葉月の家庭は大企業の創業者一族らしく、豪邸と呼ぶに相応しい家で箱入り娘として育てられていたが、葉月はあまり自分の家庭の話をしたがらなかった。

「今度美穂の一人暮らしの家見てみたいな」

「じゃあ今日来てみる?引っ越したばっかりだから何もないけど」

「いいの?行く!」

葉月は無邪気に笑うと、美穂の手を引いて走り始めた。

 

 

* * * * *

 

 

「わぁ、ここが美穂の家・・・」

学生が一人暮らしするには若干不相応に立派ではあるものの、何の変哲もないマンションを見て、それでも葉月は感嘆の声を漏らした。

「ホントに大したものないんだけどね」

こじんまりとした部屋の中にはベッドや二人用のソファが置かれ、フローリングの床には大きなカーペットと座卓がある、一点を除けばごく普通の一人暮らしの部屋だった。

 

「この部屋、空気清浄機多すぎじゃない・・・?」

壁際一面に並んだ空気清浄機はもはや家電量販店の様相を呈していた。

「最初・・その・・ガス抜きする時さ、トイレでして換気扇回してたんだけど、マンションの廊下に臭いがいっちゃうみたいで・・・。部屋の中で浄化してから換気扇回すことにしたの。その方がいちいちトイレ行かないで済むから楽だしね」

「それで臭い消えるものなの?」

「学校行ってる間中かけておけば大体消えるよ。今だってほら、臭いランプ正常になってるでしょ?」

業務用かと思われる巨大な空気清浄機は確かにグリーンランプが灯り、正常に作動していた。

 

視界の端に冷蔵庫を捉え、葉月は前から思っていた疑問を口にした。

「美穂ってさ、普段なに食べてるの?」

「えっ!?いや、普通に料理してるよ。普通の料理を」

「どんな料理よ・・・。冷蔵庫開けちゃうんだから」

「あ・・・」

葉月が一人暮らしにしては大きめな冷蔵庫を開けると、そこには肉がこれでもかという程大量に格納されていた。

「・・・美穂って、肉食獣か何かだったっけ?」

「そ、そんなことないよ!ほら、野菜だって入ってるじゃん!」

美穂が指差した先には確かに玉ねぎやらニンニクやらが鎮座していた。

「それにほら、野菜食べようかなってなったらマック行ってポテトとか食べるし!」

「そんな食生活だから毒ガスなんでしょ!!」

珍しく大きな声でツッコミを入れる葉月に、美穂はめげなかった。

「でも、あたし野菜とか魚とか苦手だし、ほら、運動部だからタンパク質摂取しないといけないし!肉は万病の薬って言うし!!」

「・・・」

美穂の肉への情熱に閉口する葉月。

「そうだ!今日葉月ちゃんもうちでご飯食べて行きなよ。作ってあげる!」

誤魔化すように葉月を誘う美穂。

「じゃ、じゃあお言葉に甘えて・・・。ママに連絡しとかないと」

美穂の手料理を食べられることに気を良くした葉月はいそいそとスマホを取り出した。

 

 

* * * * *

 

 

「何とも言えない光景ね・・・」

卓上に所狭しと並べられた料理は茶碗に盛られたご飯を除けばほとんど全て肉だった。

牛肉、豚肉、鶏肉各種揃った料理はしかし、要するに「焼いただけ」の料理である。

優に五人前はあろうかという肉を前に美穂は、「さあ、召し上がれ!!」と上機嫌である。

満更でもない様子の葉月は「いただきます」と箸に手を付ける。

 

それからというもの、美穂の食べっぷりは目を見張るものがあった。

肉という肉を口に入れながら次の肉を箸で取り、物凄い速さで平らげていく。その様子は「肉食獣」と言っても差し支えない程のものであった。

二人前相当の肉をぺろりと平らげた美穂は、さて、あと二人前ぐらい行きますか、という意気込みでふと食卓を眺めると、誤算があったことに気づいた。

これだけの料理(ほとんど肉)を出しておけば、大食いな美穂と少食な葉月が食べても十分満足できる量だと思っていたのである。

ところが、目の前に残っているのは約一人前。つまり、美穂が食べた量に近い量を葉月が食べたということになる。

 

葉月に目を向けると、確かにその様子を写真に取れば、正に深窓の令嬢が上品に食事を取っているようにしか見えない食べ方である。しかし、その速度が尋常ではなかった。

小さい口の中に、パクパクと信じられない速度で肉が吸い込まれていくのである。

美穂に見られていることに気づいた葉月は我に返った様子で

「お、おいしいね」

とだけ言うと箸を止めた。

「気に入ってもらえたみたいで良かった・・・」

と半分喜び、半分驚いた美穂は、残りを葉月と半分ずつ食べた。

 

 

* * * * *

 

 

食後、二人はソファに並んで腰掛けていた。

「葉月ちゃん、髪ふわふわ・・・」

葉月の髪を撫で回しながら、その横顔に見とれる。

こういったことに不慣れな葉月はただなすがままになっていた。

美穂の手がセーラー服の胸のあたりに忍び寄る。

慣れた手つきでリボンを外すと、制服の隙間からその小さな胸に触れた。

「えっち・・・」

葉月が上目遣いで睨むが、美穂にとっては逆効果である。

ますます興奮した美穂は、今度は秘部に触れようと、その手を胸からゆっくりと下にずらしていった。

「ぁんっ・・・」

その手の優しい愛撫に思わず声を漏らす葉月。

ふと、撫で回す手が違和感に気づく。

葉月の華奢な体はウェストも当然に細く、手で輪っかを作れば収まってしまうのではないかという程に見えたが、予想に反してその下腹部がぽっこりと出ていたのである。

「葉月ちゃん、もしかしてお腹張ってるの?」

葉月はバッと手を払うと、急いでセーラー服でお腹を隠した。

「そんなことないよ。さっきいっぱい食べたから、お腹いっぱいなだけ」

そう言って平静を装う。

「ふーん。でも考えてみたらさ、あたしだけオナラし放題っていうのも悪いし、葉月ちゃんも遠慮しないでいいんだよ?」

「ありがと。でも私は大丈夫」

「そうかな~?お腹は苦しそうだけど」

美穂は葉月の体をひょいと膝の上に乗っけると、後ろから手を回し、いつか葉月にされたように、下腹部を揉み始めようとした。

 

その時、新たな違和感に気づいた。

葉月の華奢な体であれば、自分の太ももの間にすっぽり収まってしまうだろうと思っていたのだが、実際は尻の肉が太ももに乗り切らずにはみ出る程であったのだ。

そういえば、勝手に葉月のイメージから小さなお尻や細い足をイメージしていたが、体育の授業ではテニスを選択してプリーツスカートを履いていたし、水泳の授業は見学だったし、尻の大きさがはっきり分かる服装をしていることはなかった。

校則通りの長さのスカートがふわっと膨らんでいるなという印象はあったが、それは葉月のお姫様的なイメージからではなく、下半身のボリュームからきているものだったのである。

「葉月ちゃんって意外と・・・」

「・・・」

「下半身デブ?」

「!!!!!」

特に気にしていたことが想い人にバレたことで、葉月は膝の上から抜け出そうと暴れ始めた。

「うるさい!!離して!!!」

しかし、葉月の筋力で運動部で鍛えた美穂の腕を振り解けるわけもなく、美穂は再び葉月の下腹部を揉み始めた。

「うわ~これ相当溜まってるんじゃない?」

「うるさい!!!」

「葉月ちゃん、もしかして便秘?」

「ちが・・わないけど違う!!!」

恥ずかしさから顔を真赤にして泣きそうになる葉月の腹を、美穂は更に強く刺激し始めた。

「ほら、出しちゃいなよ」

「ダメ!!」

「我慢は体に悪いよ~」

「・・・ダメぇ」

よりにもよって、美穂の膝の上で放屁するわけにはいかない、と思いながらもガスは葉月の尻に押し寄せていた。

「えい」

ダメ押しで美穂は下腹部を強く押す。

「っん~~・・・!あっ・・・」

 

ッむっすぅぅ~~~~ぅぅ~~~ううぅぅ~~~~~・・・・・・・・・・・

 

溜めの効いた特濃のスカシが葉月の尻から溢れ出す。

そのガスは、葉月の豊満な尻肉を包みきれずに食い込んだフリルのついた可愛い純白のパンツや清楚な制服のスカートを軽々と通り越し、むわぁ・・っと生暖かいガスの塊となって美穂の鼻に到達した。

美穂はそして、可愛い彼女のガスを吸い込み・・・

「すぅ・・・ん~~っっ!?!?!?!?」

そのあまりの臭いに驚愕した。

世界で一番臭いものといえば自分のオナラだろうと固く信じていた美穂にとって、その臭いは驚くべき臭さだった。

その臭いは、肥溜めにあらゆる腐った食材を投げ込み、煮込んで凝縮したような、もはや毒性を感じる程の凄まじさであった。

頭を殴られたかのような衝撃で一瞬にして気を失った美穂は、薄れ行く意識の中で葉月が自分の名前を必死に呼ぶのを聞いた気がした。

 

 

* * * * *

 

 

目を覚ますと、すっかり夜になった空が開け放たれた窓の外に見えた。

葉月が目の周りを真っ赤にして泣きじゃくっている。

美穂が目を覚ましたことに気づくと開口一番、

「バカっ!!!」

と言って美穂の胸に顔を埋めた。

その髪を美穂はゆっくり撫でる。

「葉月ちゃん、だから臭いの耐性あったんだね」

「うるさい・・!」

「でも葉月ちゃんが、あたしと同じ体質だったなんてね!ちょっとびっくりしたけどなんか嬉しい」

「違う!私は美穂みたいにブーブーいっつも出したりしないもん!」

「臭いは全然強烈だったけどね・・・」

「あれはたまたま!そう、あんなにお肉食べたから!!」

美穂はメチャクチャな言い訳をしながらどんどん子供のようになっていく葉月の頭をもう一度撫でると、髪に優しくキスをした。

「ねえ美穂、私のこと、キライになったりしないよね?」

「当たり前じゃん。むしろもっと距離が近くなった感じ!」

「えへへ・・・」

美穂は、一つのことを思い出した。

「そういえば、最初にあの場所で会った時さ、葉月ちゃんもガス抜きしようとしてたんでしょ」

「バレた・・・」

「なんであんなとこにいたんだろうってずっと不思議だったんだよね」

美穂は続ける

「でもさ、なんで秘密にしてたの?」

「・・・ごめんなさい」

「別に良いんだけど、同じ体質なんだし、言ってくれればよかったのに」

「私の・・・特に臭いから・・・」

「やっぱそうなんだ」

「今日のはマシな方かも」

「ええ・・・」

照れ隠しに葉月はもう一度美穂の胸に顔を埋めた。

その小さな体を美穂はギュッと抱き返す。

 

そんな二人の姿を、全滅した空気清浄機たちだけが静かに見守っていた・・・。

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